羽子板?
「せや、正月の遊び…の道具やな。羽根突きって言うてな。」
どうやって遊ぶんですか?
「どうやったかな。…女の子の遊びやし、ワシはよう知らんが」
女の子用?なのですか?
「おう、世間ではそうなっとる。」
男の子用の遊びもあるのですか?
「あるんやろうけど、…何やろね。独楽回しやら凧揚げなんかかね。」
…えっと。どれも解りません。
「せやろなあ。まあ、じゃあ、最初から。」

ハネツキ、でしたか?
「そうそう、羽根突きやね。これはまあ、あれや。和風テニス。」
和風のテニス?
「そ。その羽子板がラケットで、
 これで羽飾りの付いた黒い玉を地面に落とさんように打ち合うわけや。」
バトミントンみたいですね。
「ああ、バトミントン知ってるなら話が早い。大体は同じや。」
あんな感じで競うわけですね。なるほど。
「ただ、ネットもコートもない。まあ、遊びやしな。」
じゃあ競うと言うのは正しくないのですね。訂正します。
「あ、せや。点数もこれといってないけどな。代わりに罰がある。」
罰、ですか…?
「まあ、そんな神妙なモンでも無いけど。
 自分の手番で地面に玉を落としてまうと、顔に墨で落書きされてしまうんや。」
…女の子の遊び、と仰いませんでしたか?
「そやね。だからこそ、まあ必死になるわけよ。」
競うというのは外れても居なさそうですね。
「せやね…まあ、ムキになりやすい遊びではあるな。」

「独楽回しも対戦色はあるにはあるけど、どっちかってぇと回す方が大事や。」
コマっていうものを回すんですね。
「まあ、字面通りやね。そう。独楽を回すんや。
 というか、独楽と言うものは回るように出来てるおもちゃのことや。」
タコアゲというものも、タコをアゲるのですか?
「お。鋭いな。その通や。」
先の二つも名詞と動詞の組み合わせで出来た名詞のようでしたから。
「…うん、そおね。そのまんまやったね。」
タコ…って…
「海に居る八本脚の軟体動物とは同音異義語や。」
ということは料理ではないのですね。
「うん、タコを天ぷらにするんでも無ければ天日干しにするんでもない。
 あげるっちゅう字は一緒やけどな。凧揚げ。」
では、そのタコというのは。
「凧はな、空に揚げるんや。」
空に。
「せや。風に乗せて、空に泳がせる。」
落ちないのですか?
「それはまあ、腕次第やね。
 凧には長い紐が付いてるんやけど、地上からはこの紐で凧を操作するんや。」
ああ、空に揚げるのは凧だけなのですね。
「あんまりでかい奴だと揚げてる方も飛んでいく可能性があるらしいけどな。」

「実物があるとええんやけどな。そのほうが解りやすいし。」
そうですね…。
「昔は全部手作りだったらしいから、作れん事は無いんやろけど。」
そうなんですか?
「いや、まあ、作れん事は無いンやろうけど…その、ワシ作った事ないし。」
そうですか…。
「うん?そういや、その羽子板は何処から持って来たん?」
これは、倉庫からです。
「ああ、そうか。倉庫に何ぞあるかも知れんね。
 ココの倉庫はやたらと古いし。」
あの、良ろしければ…
「ええよ。暇やし、一緒に探したる。」
ありがとうございます。…は。
「何や、固まって。」
…これ…羽子板って、参拝の方にお分けするためのお品でした。
「おっと。それやったらはよ持って行ったらなあかんね。
 …ワシも一緒に行って謝ったるし、そない泣きそうにせんと。」