地方回り

「すんませーん!このプロジェクターは何処置きゃいいンスかねー?」
「それは上手奥に置いといてー!あとで調整すッからさぁ!」


季節は夏。世間の学生は夏休みに浮かれている頃。
デパートの屋上に設けられた小さなステージに、様々な機材が運び込まれる。


ひとしきり運び終えた後、新人スタッフがベテランスタッフに尋ねた。


「今日はどんな子が来るンスかね?」
「何だ、知らんのか。」


一服の煙を吐きながら、ベテランは新人をちょっと眺めて言った。


「ちょっと前にゃ、鳴り物入りで出てきた子なんだが…お前、幾つだっけ?」
「19です。」
「ふうん、じゃあ、今じゃお前のほうが年上だな。」
「は?」
「その子はさ、15でデビューしたんだ。丁度5年前の話。」
「へえ…?」
と、新人はうなずいたものの、あまり納得はしていない顔だ。
「でも、今でもその子は、15って事になってるんだがな。」
「ああ…、アイドルの宿命って奴ですかね?ちょっとでも若いイメージで…って風に」
「あ?…ああ。いやいや。そんなもんじゃない。」
「はぁ。」


「宿命っていやあそう、そうなんだが、違うんだ。アイドルや業界なんて枠じゃあない、本当の宿命さ。」


「まあ、見りゃ分かるさ」
とだけ言って、ベテランはタバコを潰して席を立った。


本番が始まり、それなりの経過を経て、何事もなく終わった。
興味は持たれたが、拍手は疎らだった。


「お疲れ様でーす!」
「おう、お疲れさん。」


三々五々にスタッフが別れる頃、新人スタッフは、ベテランスタッフと遭った。


「どうだった?」
ベテランが訊ねた。
「どうって…」
新人は、どう答えようかと迷った。
「そうだろうな。何てぇ言ったらいいんだかわからんだろう?」
「はあ」
「いきなり裏から見たんじゃなおさらさ。」
ベテランはタバコを取り出して、くわえながら笑った。
「でもなぁ。アイドルとしてはいい線だって思うんだがなあ。」
「『リアルにだって負けない』?」
新人の言ったフレーズは、つい先ほど彼女が歌っていた歌の一節だった。
「そう、それ。」
ベテランは今度は本当に笑った。新人も笑った。


機材を乗せるトラックが次の町へ走っていく。
その、ちょっと大き目のトラックが彼女専用である証拠に、
彼女の笑顔がトラック一面にプリントされている。


バーチャルアイドル』という肩書きと共に。